髪の毛は、毛根部の毛母細胞が細胞分裂を繰り返すことで成長しますが、この活発な細胞活動を維持するためには、様々な栄養素が供給される必要があります。科学的な視点から見ると、特定の栄養素が髪の成長サイクルや毛包の健康にどのように影響を与えているのか、より深く理解することができます。髪の主成分であるケラチンは、約18種類のアミノ酸が結合してできたタンパク質です。これらのアミノ酸、特にシスチンやメチオニンといった含硫アミノ酸は、食事から摂取したタンパク質が体内で分解・再合成されることで供給されます。これらのアミノ酸が不足すると、ケラチンの生成が滞り、髪が細くなったり弱くなったりします。亜鉛は、DNAやRNAの合成、そしてタンパク質の合成に関わる多くの酵素の働きを助ける補酵素として機能します。毛母細胞は体の細胞の中でも分裂速度が非常に速いため、活発な細胞分裂のためには亜鉛が不可欠です。亜鉛が不足すると、毛母細胞の活動が低下し、髪の成長が遅延したり、休止期に入る毛が増えたりすることが研究で示唆されています。鉄分は、血液中のヘモグロビンの一部として酸素運搬を担いますが、髪の毛の成長にも間接的に深く関わっています。毛根の毛母細胞は、その活発な活動のために多くの酸素を必要とします。鉄分不足による貧血状態では、頭皮を含む全身への酸素供給が低下し、毛母細胞の活動が鈍り、髪の成長が妨げられると考えられています。研究によっては、女性の抜け毛と鉄欠乏性貧血に関連が見られるという報告もあります。ビタミンB群、特にビオチン(ビタミンB7)は、皮膚や毛髪の健康に関与する酵素の補酵素として知られています。ビオチン不足は非常に稀ですが、不足すると皮膚炎や脱毛などが起こることが報告されています。他のビタミンB群も、エネルギー代謝やアミノ酸代謝に関わり、毛母細胞の正常な機能維持に重要です。ビタミンCは、結合組織であるコラーゲンの合成に不可欠であり、頭皮の真皮層の構造を強化し、毛包を支える働きを助けます。また、抗酸化作用により、頭皮を酸化ストレスから守ります。ビタミンEは血管拡張作用を持ち、頭皮の血行を促進することで毛根への栄養供給を助けます。これらの栄養素は、それぞれが単独で機能するのではなく、複雑な生化学反応の中で互いに連携し合って、髪の成長をサポートしています。
髪の成長と栄養素の働き