鏡を見るのが少し憂鬱になったのは、30代半ばを過ぎた頃でした。明らかに生え際が後退し始め、頭頂部もなんとなく薄くなってきた気がする。最初は気のせいだと思おうとしましたが、友人から冗談半分で指摘されたりすると、やはり落ち込みました。育毛剤を試したり、髪型でなんとか隠そうとしたりしましたが、根本的な解決にはならず、むしろ隠していることへのストレスを感じるようになっていました。そんな時、偶然インターネットで「フェードカット」という髪型を知りました。サイドを潔く刈り上げ、トップはデザインされている。薄毛を隠すのではなく、むしろそれを活かしたスタイルのように見えました。「これなら、隠すストレスから解放されるかもしれない」そう思い、勇気を出してバーバースタイルの理容室の門を叩きました。初めてのフェードカット。バリカンが頭皮に触れる感覚に少し緊張しましたが、仕上がりを見た瞬間、驚きと新鮮さを感じました。サイドはすっきりと刈り上げられ、心配していたM字部分も思ったほど目立たない。むしろ、全体として清潔感があり、引き締まった印象に見えました。「隠す」のではなく、「見せる」部分と「デザインする」部分を明確に分けることで、コンプレックスが個性へと昇華したような感覚でした。もちろん、髪が増えたわけではありません。でも、気持ちの持ちようが大きく変わりました。以前のように、風が吹くたびに髪型を気にしたり、人の視線を過剰に気にしたりすることが格段に減ったのです。堂々としていられるようになった、と言えば良いでしょうか。周りの反応も、「似合うね」「さっぱりして良い感じ」と概ね好評で、それも自信につながりました。フェードカットにしたからといって、薄毛の悩みから完全に解放されたわけではありません。日々のケアは続けていますし、将来への不安がゼロになったわけでもありません。しかし、フェードカットという髪型は、私にとって単なるヘアスタイル以上の意味を持ちました。それは、薄毛という現実を受け入れ、それでも自分らしく、前向きに生きていくための「鎧」であり、「相棒」のような存在です。隠すことにエネルギーを使うのではなく、自分に似合うスタイルを見つけ、堂々としていること。それが、薄毛と上手に付き合っていくための一つの答えなのかもしれないと、今は感じています。