20代後半、ふと鏡に映る自分の姿に違和感を覚えたのが始まりでした。シャワーを浴びて髪をかき上げた時、前髪の生え際、特にM字の部分の地肌が、以前より透けて見える気がしたのです。「気のせいだ」と思おうとしても、一度気になり始めると、毎日鏡でチェックしてはため息をつく、という負のスパイラルに陥りました。友人からは「考えすぎだよ」と言われましたが、自分にとっては深刻な問題でした。そこから、僕の試行錯誤の日々が始まりました。まず手を出したのは、インターネットで評判の良かった育毛シャンプー。洗浄成分が優しく、頭皮に良いという謳い文句に惹かれましたが、数ヶ月使っても、抜け毛が減る実感は得られませんでした。次に、亜鉛やノコギリヤシといった、髪に良いとされるサプリメントを試しました。これも、気休め以上の効果は感じられず、ただお金が出ていくだけでした。ワックスで前髪を無理やり立ち上げて薄い部分を隠そうとすればするほど、不自然さが際立ち、余計に人の視線が気になる始末。何をやってもうまくいかず、自信を失い、人と会うのが億劫にさえなっていました。このままでは精神的に参ってしまう。そう思った僕は、ついに勇気を出し、AGA専門のクリニックの扉を叩きました。カウンセリングで悩みを打ち明け、医師にマイクロスコープで頭皮を見てもらうと、「典型的なAGAの初期症状ですね。でも、早く気づいて来られたので、治療で十分改善が見込めますよ」と言われました。その言葉に、どれだけ救われたことか。診断の結果、僕はフィナステリドという内服薬と、ミノキシジルという外用薬による治療を開始することになりました。毎日薬を飲み、頭皮に薬を塗る。ただそれだけのシンプルな治療でしたが、3ヶ月が過ぎた頃から、明らかな変化が現れ始めました。まず、シャンプー時の抜け毛が明らかに減ったのです。そして半年が経つ頃には、気になっていたM字部分に、細く短い産毛が生えてきているのを確認できました。一年後、鏡に映っていたのは、以前のようにスタイリングを楽しんでいる自分の姿でした。僕が長い試行錯誤の末にたどり着いた結論は、ごく当たり前のことですが、「餅は餅屋」だということです。自己流のケアで時間とお金を浪費する前に、専門家による正しい診断と、医学的根拠のある治療を受けること。それが、悩み解決への最も確実で、実は最も近道なのだと、身をもって知りました。